銀行が「決算書」として求めるのは、決算報告書・勘定科目内訳明細書・法人税の申告書を合わせた一式です。直近2〜3期分を求められることが多く、令和7年1月からは税務署の収受日付印が押されなくなったため、提出の控えの形も変わりました。銀行の担当の方から「決算書を3期分いただけますか」と言われて手が止まった、どこまでが「決算書」なのか分からない——融資や口座開設、リース契約の場面で、こうしたご相談をよくいただきます。
分からなくて当然です。決算書は年に一度しか触れない書類で、しかも銀行の言う「決算書」は、表紙に決算書と書かれた冊子だけを指していないことが多いからです。この記事では、何をそろえればよいか、銀行はどこを見ているのか、そして取引先から求められたときにどこまで出すかを整理します。
銀行の言う「決算書」は、たいてい一式のことです
金融機関によって違いはありますが、「決算書をください」と言われたときに想定されているのは、多くの場合つぎの一式です。
- 決算報告書:貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・個別注記表
- 法人税の申告書:別表一から始まる一連の別表
- 勘定科目内訳明細書:預金・売掛金・借入金などの相手先と残高の明細
- 法人事業概況説明書:事業内容や従業員数、月別の売上などをまとめた書類
これに加えて、決算から時間がたっている場合は直近の試算表を、融資の種類によっては納税証明書を求められることがあります。何が必要かは金融機関と手続きの内容で変わりますので、担当の方に「一式とは何を指しますか」と聞いていただくのが、いちばん確実です。聞いて失礼になることはありません。
「税務署に出したもの」だと分かる形で渡す
銀行が確認したいのは、その決算書が実際に税務署へ提出されたものと同じかという点です。以前は、申告書の控えに押された税務署の受付印(収受日付印)がその証明になっていました。
ところが、令和7年(2025年)1月から、税務署は申告書の控えに収受日付印を押さなくなりました(国税庁「令和7年1月からの申告書等の控えへの収受日付印の押なつについて」)。いまは次の形で提出の事実を示します。
- e-Tax(電子申告)で提出した場合:送信後にメッセージボックスへ届く「受信通知」を、申告書と一緒に渡します。受付の日時と受付番号が載っています。
- 書面で提出した場合:控えに印はありません。提出した日付と税務署名を記したリーフレットを窓口で受け取れる取扱いがあります。
税理士に申告を依頼している場合は、申告書の控えと受信通知をまとめて受け取っているはずです。見当たらないときは、まず顧問の税理士さんに「銀行に出すので一式ください」と伝えれば、そろえてもらえます。ご自身で申告された方は、e-Taxのメッセージボックスから確認できます。どうしても控えが見つからない場合に備えて、税務署には過去の申告書を閲覧できる制度(申告書等閲覧サービス)もあります。
銀行は、決算書のどこを見ているのか
審査の基準は金融機関ごとに異なり、外からは分かりません。ただ、実務のなかで担当の方から質問を受けやすいところは、ある程度決まっています。
1. 純資産がプラスかどうか
貸借対照表の右下、「純資産の部」の合計です。ここがマイナス(債務超過)になっていないかは、まず見られるところです。
2. 本業で利益が出ているか、返済の原資があるか
損益計算書の営業利益と経常利益です。返済にあてられるお金という意味では、利益に減価償却費を足し戻した金額も見られます。
3. 会社のお金が、社長個人に流れていないか
勘定科目内訳明細書の「役員貸付金」「仮払金」です。会社から社長への貸付けが大きく残っていると、「融資したお金も同じように流れるのでは」と受け取られやすくなります。反対に、社長が会社に貸している「役員借入金」は、事情を説明すれば実質的な自己資本として見てもらえる場合があります。
4. 売掛金や在庫に、動いていないものがないか
内訳明細書に、何期も同じ相手先・同じ金額の売掛金が載り続けていると、回収できるのかを尋ねられます。
ここで知っておいていただきたいのは、「税金を抑えたい」と「銀行に良く見せたい」は、決算書の上では反対の方向を向くということです。利益を小さくすれば税金は減りますが、銀行から見た返済の力も小さく見えます。どちらが正しいということではなく、近いうちに借入れの予定があるかどうかで、その年の決算の考え方が変わります。
直せるのは、決算が終わる前だけです
決算書は、その1年に実際に行った取引の結果です。年度が終わってから数字の見え方だけを整えることはできませんし、事実と違う決算書をつくることは決してあってはなりません。
一方で、決算を迎える前であれば、できることがあります。社長への貸付けを期中に精算しておく。回収の見込みがない売掛金を、要件を確認したうえで処理する。利益の着地を見ながら、対策をどこまで行うかを決める。いずれも、年度のなかでしか動かせないことです。
当事務所では、顧問契約で事業をされているお客様には、決算前に利益と納税額の見込みをお伝えしています。借入れや設備投資のご予定があるときは、その場でお聞かせください。税額だけでなく、その決算書が銀行からどう見えるかも踏まえて、一緒に考えます。決算前の対策については「利益が出た年の節税」、社長の報酬の決め方については「役員報酬の決め方」もあわせてご覧ください。
銀行に試算表も求められたら
決算から半年以上たっていると、「直近の試算表もお願いします」と言われることがあります。試算表は日々の記帳が済んでいないと出せませんので、帳簿が数か月分たまっていると、すぐにはお渡しできません。
借入れの予定が見えてきたら、銀行に行く前に、税理士へひとこと伝えておくことをおすすめします。いつまでに何が必要かが分かれば、間に合うように段取りを組めます。
取引先から決算書を求められたら、どこまで出すか
取引先から決算書の提出を要求されたときは、貸借対照表と損益計算書の2枚をお渡しして足りることが多いです。銀行と同じように一式をそろえるかどうかは、契約でどう定めているか、そして相手がどの判断にお使いになるかで決まります。
求められる場面は、新しい取引を始めるとき、掛け売りの枠を広げてもらうとき、下請けとして登録するとき、事務所や店舗を借りるときなどです。相手が確かめたいのは、この会社と安心して取引を続けられるか——支払いの力と、事業の安定——という点で、融資の審査のように事業の中身まで追うわけではありません。会社の規模と利益、債務の状況が読み取れれば、その目的は満たせます。
一方で、一式をそのまま渡すと、伝わる範囲はかなり広がります。一式に含まれる勘定科目内訳明細書は、e-Tax「勘定科目内訳明細書の標準フォーム等(令和6年3月1日以後終了事業年度分)」のとおり16種類に分かれており、売掛金・買掛金の内訳書には他のお取引先の名前と金額、借入金及び支払利子の内訳書には借入先と残高、役員報酬手当等及び人件費の内訳書には役員ごとの報酬額、地代家賃等の内訳書には家賃の支払先が、1件ずつ載っています。法人事業概況説明書には、月別の売上や従業員数も並びます。
求められたときは、「どのご判断にお使いになりますか」と一言うかがってから、お渡しする範囲を決めるのが落ち着いた進め方です。「決算書のうち、貸借対照表と損益計算書をお送りします。ほかにご入用の書類がございましたら、お知らせください」——このように範囲を添えてお返しすれば、相手に失礼にはなりません。足りなければ、そのときに追加すればよいのです。
なお、継続的な取引の基本契約書に、決算書の提出を定めた条項が入っていることがあります。その場合は契約の定めが先になりますので、求められた書類がその範囲に沿うものかを一度確かめておくと安心です。どこまで出すか迷われたときは、お手元の決算書を拝見しながら、ご一緒に決められます。
よくあるご質問
Q.銀行に出す決算書は、何期分が必要ですか?
直近3期分を求められることが多いです。設立から3期たっていない会社は、ある分だけで構いません。必要な期数や書類は金融機関や融資の種類によって変わりますので、担当の方に「一式とは何を指しますか」と確認していただくのが確実です。
Q.赤字の決算書でも、融資の相談はできますか?
赤字だからといって、それだけで相談できなくなるわけではありません。一時的な要因による赤字なのか、来期以降どう立て直すのかを説明できるかどうかが大切になります。結果は金融機関の判断によりますが、数字の背景を言葉にして添える準備はお手伝いできます。
Q.これまで自分で申告してきました。決算書の内容に自信がないのですが、相談できますか?
ご相談いただけます。ご自身で申告を続けてこられた方が、融資をきっかけに一度見てほしいとお越しになることは珍しくありません。いまの決算書を拝見し、どこを整えると伝わりやすくなるかを一緒に確認します。初回のご相談は無料です。
Q.取引先から決算書を求められました。一式をそのまま渡すべきですか?
契約に定めがなければ、貸借対照表と損益計算書をお渡しして足りることが多いです。一式に含まれる勘定科目内訳明細書には、他のお取引先の名前と金額、借入先と残高、役員ごとの報酬額まで載っています。まず「どのご判断にお使いになりますか」とうかがい、必要な範囲をお渡しするのが落ち着いた進め方です。継続的な取引の基本契約書に提出の条項があるときは、その定めに沿ってご判断ください。