マイクロ法人とは、一般に代表者ひとり(またはごく少人数)で運営する小規模な法人を指す通称です。個人事業を続けながら、別の事業を法人で行う「個人事業+法人の併用」という形で活用されることがあります。
うまく設計すると、社会保険料や税負担の面で選択肢が広がる場合があります。ただし、誰にでも向いているわけではありません。この記事では、仕組みと注意点を整理します。2026年には、社会保険料の削減をうたう仕組みについて厚生労働省の通知が出ました。その要点と、当事務所の考え方もあわせてまとめています。
個人事業主とマイクロ法人は、何が違うのか
「法人にすると何が変わるのか」を、判断に関わるところだけ並べます。
- 社会保険:個人事業主は国民健康保険と国民年金に加入します。国民健康保険の保険料は前年の所得などをもとに決まり、国民年金は定額です。法人では健康保険と厚生年金に加入し、保険料は法人から受け取る役員報酬をもとに決まります(日本年金機構「厚生年金保険の保険料」)。
- 税金のかかり方:個人の所得税は、所得が増えるほど税率が上がる仕組みです。法人の利益には法人税等がかかり、法人から受け取る役員報酬には給与所得控除が使えます。
- 使える打ち手:法人では、役員報酬の設計、退職金、法人で加入できる共済など、個人だけのときには無かった選択肢が加わります。
- 維持にかかるもの:法人は設立に費用がかかり、赤字の年でも住民税の均等割がかかります。決算と申告も、個人の確定申告より手間が増えます。
- 取引先からの見え方:「法人としか契約しない」という取引先があります。法人格があることで、受けられる仕事が広がる場合があります。
ただ、違いを並べただけでは「自分はどちらが良いか」は決まりません。当事務所が試算のときに見ているのは、①個人事業の所得の水準、②法人に移せる「性質の異なる事業」が実際にあるか、③均等割や申告の手間を差し引いても手元に残るかの3点です。この3つがそろって、はじめて併用を検討する意味が出てきます。
マイクロ法人の主なメリット
個人事業とマイクロ法人をうまく併用できると、主に次の3つのメリットが期待できます。
- 社会保険料の負担を見直せる:法人では、役員報酬を基準に健康保険・厚生年金の保険料が決まります。役員報酬が業務の対価として毎月支払われていることが前提で、その範囲で負担が整理される場合があります。保険料を下げること自体を目的にした設計は、当事務所ではおすすめしていません。
- 所得の分散が図れる:個人と法人に所得を分けることで、税率の高い部分に所得が集中するのを避けられます。
- 節税の選択肢が広がる:個人と法人の両方を持つことで、経費・共済・退職金など、個人だけでは使えなかった打ち手が視野に入ります。
当事務所は、この個人+法人の併用設計を得意分野のひとつとしています。実態のある事業を前提に、シミュレーションから設立後の運営まで一貫してサポートします。
マイクロ法人はどんなときに検討する価値がありますか?
- 個人事業の所得が一定以上あり、税金と社会保険料をまとめて設計し直したい
- 事業内容が複数あり、性質の異なる事業を分けて運営したい
- 将来の法人化を見据えて、小さく始めたい
一方で、実態のある事業があることが大前提です。節税だけを目的に、実体のない法人をつくることはおすすめしません。税務上も、事業の実態が問われます。
個人事業とマイクロ法人を併用する形
たとえば、これまで個人事業で行っていた業務のうち、性質の異なる一部を法人で担う形にすると、取引の幅が広がり、結果として全体の手取りが改善するケースがあります。実際にBLOOMでも、個人とマイクロ法人の併用により取引の幅を広げ、年間の手取りが改善した実例があります(金額はケースにより異なります)。
法人格を持つことで「法人としか取引しない」企業との契約が可能になるなど、節税以外のメリットが生まれることもあります。
マイクロ法人の併用で見落とされがちなコスト
法人には、赤字でもかかる住民税の均等割(年約7万円〜)、社会保険の加入義務、記帳・決算・申告の手間といった維持コストがあります。メリットがこれらのコストを上回るかを、事前に試算することが大切です。
2026年の厚生労働省の通知で、はっきりしたこと
2026年3月18日、厚生労働省は「法人の役員である個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いについて」という通知を出し、同年9月14日に一部を改正しました。背景にあるのは、社会保険料の削減をうたって個人事業主を法人の役員にし、健康保険・厚生年金の被保険者として届け出る一方で、会費などの名目で報酬を上回るお金を払わせる事業所が現れたことです。
通知の物差しは2つです。法人の役員が健康保険・厚生年金に入れるかどうかは、①その業務が経営に参画する経常的な労務の提供か、②その報酬が業務の対価として法人から経常的に支払われているか(厚生労働省「勤務時間が短い正規型の労働者として事業所に使用されている個人事業主等に係る被保険者資格の取扱い等について」)、を実態で総合的に判断する、とあらためて示されました。原則として当てはまらない例として、役員報酬を上回る会費を払っている場合(会費の名目は問わず、勉強費・コンサルタント料・委託費なども含まれます)や、業務が勉強会への参加やアンケートの回答、活動報告にとどまる場合が挙げられています。
なお、同じ9月14日には、個人事業主などを勤務時間がごく短い正規の従業員として雇う形について、別の通知も出ています。こちらは役員ではなく従業員についての通知で、報酬が業務の対価といえない場合(報酬を上回る会費などを払っている場合など)と、業務が経常的な労務の提供といえない場合(個人事業として行っている活動を、形式的にそのまま事業所の業務としているだけの場合など)の両方に当たるときは、原則として被保険者にならないとされています。どちらか一方に当たるだけのときは、働き方の実態から個別に判断するとされています。
ここで整理しておきたいのは、通知が想定しているのは「他人の法人の役員になる仕組み」だという点です。自分で設立し、代表として経営し、その法人に契約・請求・入金の実態がある形は、これとは別のものです。役員報酬が低いこと自体を問題にする文言もありません。ただし、判断の物差しが「実態」であることは同じです。お金を回しているだけの形や、個人の事業を形だけ法人に移した形は、この通知が出る前から税務の面でも問題になる形でした。
当事務所がマイクロ法人の設計で確認しているのは、次の3点です。
- 法人に、法人としての契約・請求・入金があること
- 代表として、経営の判断と業務を実際に担っていること
- 役員報酬が業務に見合った額で、毎月支払われていること
社会保険の資格を最終的に判断するのは、日本年金機構(年金事務所)や健康保険組合などの行政側です。当事務所は税務の立場から、実態の整え方と手取りの試算を担当し、社会保険の手続きが必要な場面では社会保険労務士と連携してご案内します。
「マイクロ法人=必ず得」ではありません。所得の構成・事業の性質・将来計画によって、向き不向きがはっきり分かれます。つくってから後悔しないよう、必ず事前の試算をおすすめします。役員報酬の設計については「役員報酬の決め方」を、併用ではなく事業ごと法人化する「法人成り」については「法人成りと社会保険料の本当のところ」もご覧ください。
当事務所がお手伝いすること
マイクロ法人のご相談は、次の順に進めます。面談から設立後の顧問までオンラインで完結するため、全国どこからでもご依頼いただけます。
- 試算:事業の内容と所得の構成をうかがい、個人と法人での事業の分け方と役員報酬の額を仮に置いて、税金と社会保険料を合わせた手取りがどう変わるかを試算します。試算の結果、法人をつくらないほうがよいとお伝えすることもあります。
- 設立:株式会社か合同会社か、決算月・資本金などを一緒に決め、登記は司法書士と連携して進めます。設立後の届出や役員報酬を決める期限もご案内します(「株式会社と合同会社、どちらにする?」)。
- 設立後の顧問:記帳・決算・申告に加え、個人と法人それぞれに事業の実態が保たれているか、役員報酬の見直しが要るかを、決算前の試算とあわせて毎期確認します。
顧問料と担当範囲は、法人顧問ページの料金案内をご覧ください。
よくあるご質問
Q.マイクロ法人をつくると、なぜ社会保険料を抑えられるのですか?
社会保険料は、法人から受け取る役員報酬を基準に決まるためです。役員報酬が業務の対価として毎月支払われていることが前提で、その範囲で国民健康保険・国民年金との負担の差が出る場合があります。実際にどれくらい変わるかは、所得や事業の構成により異なりますので、シミュレーションで試算します。
Q.節税の面では、どんなメリットがありますか?
個人と法人に所得を分散することで、税率の高い部分に所得が集中するのを避けられます。さらに、法人ならではの経費・共済・退職金といった打ち手も使えるようになり、個人だけの場合と比べて節税の選択肢が大きく広がります。
Q.個人事業と同じ事業を、マイクロ法人でも行ってよいですか?
同じ事業をただ二つに分けただけの形は、おすすめしていません。個人と法人のそれぞれに、契約・請求・入金といった事業の実態があることが前提になります。性質の異なる事業を分けて運営する形が基本です。ご自身の事業でどう分けられるかは、内容をうかがったうえで一緒に整理します。
Q.自分の場合もメリットが出るか知りたいです。
事業内容・所得の構成・ご家族の状況によって効果は変わります。当事務所はマイクロ法人の設計を得意としており、実態のある事業を前提に「いくら変わるか」をシミュレーションで確認してからご判断いただけます。初回のご相談は無料です。
Q.2026年の厚生労働省の通知で、マイクロ法人はつくれなくなりましたか?
いいえ。通知の背景にあるのは、社会保険料の削減をうたって個人事業主を他人の法人の役員にし、会費などを払わせる仕組みです。自分で設立し、代表として経営し、契約・請求・入金の実態がある法人は、それとは別のものです。ただし、判断は実態で行われます。お金を回しているだけの形や、個人の事業を形だけ法人に移した形にならないよう、設計の段階で確認することが大切です。