会社と個人のお金は、口座・クレジットカード・立替えの精算・役員報酬の4つを先に決めておけば混ざりません。会社が役員に無利息や低い利息でお金を貸していると、本来受け取るはずだった利息に当たる金額が役員への給与として課税されることがあるため、「あとで返す」前提の支出は避けるほうが安全です。会社をつくったばかりの方から、「これ、まずかったでしょうか」というご相談をよくいただきます。
先にお答えすると、一度や二度であれば、あとから整えられます。個人事業のころは自分の財布ひとつで回っていたのですから、混ざってしまうのは自然なことです。大切なのは、混ざったままにしないことと、これから混ざりにくい形を先につくっておくことです。
会社と個人のお金を、なぜ分けておく必要があるのか
会社は、社長ひとりの会社であっても、社長とは別の「人」として扱われます。会社の口座にあるお金は会社のもので、社長個人のものではありません。
そのため、会社のお金を社長が私用に使うと、帳簿の上では「会社が社長にお金を貸した」という扱いになります。これが決算書に載る「役員貸付金」です。小さな金額でも、積み重なると次のようなことが起こります。
- 利息の問題:会社が役員に無利息や低い利息でお金を貸していると、本来もらうはずだった利息に当たる金額が、役員への給与として課税されることがあります(国税庁「No.2606 金銭を貸し付けたとき」)。
- 銀行からの見え方:役員貸付金が大きく残っている決算書は、「融資したお金も同じように社長へ流れるのでは」と受け取られやすくなります。詳しくは「銀行から決算書の提出を求められたら」に書きました。
- 経理の手間:どれが会社の支払いで、どれが私用だったのかを、あとから一件ずつ思い出すことになります。決算のときに、いちばん時間がかかるのがここです。
会社と個人のお金を分ける4つの決めごと
1. 会社の口座と、会社用のカードを分けてつくる
会社名義の口座をひとつ、会社の支払い専用のクレジットカードを1枚用意します。会社の売上はすべてその口座に入れ、会社の支払いはその口座とカードから出します。これだけで、混ざる場面の大半がなくなります。
設立したばかりのころは、法人カードの審査に時間がかかることがあります。そのあいだ、個人名義のカードのうち1枚を会社の支払いだけに使っている、という例も実際にはあります。ただ、当事務所としては、会社名義のカードをつくっていただくことをおすすめしています。個人名義のカードは、審査が通るまでのつなぎとお考えください。
いちばんの理由は、外から帳簿を見たときの受け取られ方が変わるからです。会社の支払いが個人名義のカードから出ていると、税務署を含め、帳簿を見る側は「私的な支払いも混ざっているのでは」というところから確認を始めます。会社名義のカードに分けてあれば、「会社のカードで払ったものは、会社の支払い」という前提から見てもらいやすくなります。私的な支払いが入り込まないように分けている、ということが形で伝わるのです。実務のうえでも、分けておけば混ざること自体が起きにくくなります。
2. 生活費は、役員報酬として受け取る
社長の生活費は、会社の口座から必要なときに引き出すのではなく、毎月決まった日に、決まった額を役員報酬として個人の口座へ振り込みます。生活の支払いは、そこから先の個人の口座で行います。
役員報酬の額は、事業年度が始まってから3か月以内に決め、原則としてその期のあいだは変えません(国税庁「No.5211 役員に対する給与」)。決め方は「役員報酬の決め方」、設立直後の期限は「池田市で会社を設立したら」で解説しています。
3. 立て替えたら、月に一度まとめて精算する
出先で会社の備品を個人の財布から払う、ということは必ず起こります。それ自体は問題ありません。領収書を取っておき、月に一度、立て替えた合計を会社から個人へ振り込んで精算してください。
難しい書類は要りません。日付・支払先・金額・何のための支払いかが分かるメモと領収書があれば足ります。精算した記録が通帳に残っていることが、あとで効いてきます。
4. 会社にお金を入れるとき、出すときは、振込で記録を残す
設立したばかりの時期は、会社の資金が足りず、社長個人のお金を会社に入れることがあります。これは社長から会社への貸付け(役員借入金)で、会社に余裕ができたら返してもらえます。返してもらっても、それに税金がかかるわけではありません。
このとき、現金で入れたり出したりせず、必ず口座間の振込にしてください。いつ、いくら入れて、いくら返してもらったかが、通帳だけで説明できるようになります。
すでに混ざってしまっている場合も、心配はいりません。私用で使った分は会社の口座へ戻す。立て替えた分は会社から精算する。この二つを、決算を迎える前に済ませておけば、決算書に余計な貸し借りを残さずに済みます。どこまでが私用でどこからが会社の支払いか、判断に迷うものがあれば、その都度お尋ねください。
「分ける」と、経理はぐっと軽くなります
会社の口座と会社用のカードに支払いがまとまっていれば、会計ソフトと連携するだけで、取引の大半が自動で取り込まれます。連携の操作は、暗証番号などの入力があるため、お客様ご自身で行っていただきます。手順はこちらからご案内しますので、ご安心ください。ほとんどの金融機関は連携に対応していますので、通帳のコピーやカードの明細をいただくのは、連携に対応していない金融機関がある場合だけです。
ひとつだけ、あらかじめお願いがあります。一度連携しても、金融機関側のセキュリティの都合で、数か月ごとに再連携が必要になることがあります。そのときはこちらからお声がけしますので、お手数ですがご対応ください。
当事務所では、顧問契約で事業をされているお客様には、決算前に利益と納税額の見込みをお伝えしています。会社と個人のお金が分かれていると、この見通しが早く、正確に出せます。経理の負担を減らす進め方は「税理士に丸投げって、どこまでできる?」もあわせてご覧ください。
よくあるご質問
Q.会社の口座から、うっかり私用の支払いをしてしまいました。どうすればよいですか?
まず、その金額を会社の口座へ戻してください。戻した日付と金額が通帳に残れば、「一時的に立て替わっていたものを精算した」と説明できます。戻さないまま決算を迎えると、会社から社長への貸付金として決算書に残ります。金額が小さいうちに、気づいた時点で戻すのがいちばん簡単です。
Q.個人のクレジットカードで払った会社の経費は、経費にできますか?
会社の事業のための支出であれば、経費にできます。領収書や利用明細を残し、会社から社長へその金額を精算(振込)してください。月に一度まとめて精算する形で十分です。ただ、これは出先でのやむを得ない立替えの話です。会社の支払いは、会社名義の口座とカードから出すのが基本です。
Q.会社に自分のお金を入れた場合は、どう扱われますか?
社長が会社に貸したお金(役員借入金)として記録します。会社の資金に余裕ができたときに返してもらうことができ、返してもらっても、それに税金がかかるわけではありません。入れた日付と金額が通帳で分かるように、現金ではなく振込で入れておくことをおすすめします。