節税で利益を抑えると、その期の決算書は、利益も、利益が積み上がる純資産も小さく出ます。ただし表れ方は対策によって違い、お金が出ていくもの、資産や負債として残るもの、利益は減るのに税金は減らないものがあります。来年に借入れの予定があるなら、決算前の着地予想の段階で、下の表で対策ごとの表れ方を確かめてから、どこまで行うかを決めることをおすすめします。
銀行に出す書類の範囲や、決算書のどこに質問を受けやすいかは「銀行から決算書の提出を求められたら」にまとめています。この記事では、節税の中身が決算書にどう表れるかに絞ります。審査の基準は金融機関ごとに異なり外からは分からないため、融資を受けられるかどうかには触れません。
節税をすると、決算書のどこが変わりますか?
経費を増やして利益を抑える対策は、決算書の2か所に表れます。
- 損益計算書:その期の利益が、対策の分だけ小さくなります。
- 貸借対照表:毎期の利益が積み上がる「純資産」の増え方が小さくなります。あわせて、対策の中身に応じて、現預金が減る、設備などの資産が増える、未払いの負債が載る、といった変化が出ます。
もう一つ押さえておきたいのは、経費を使って減る税金は、使った額の一部だということです。法人税などは所得に税率をかけて計算するため、税金を減らすためだけにお金を使うと、手元に残るお金は使わなかった場合より少なくなります。利益の出た期に、事業に必要な支出を前倒しする(「利益が出た年の節税」)のが基本です。
対策によって、決算書への表れ方はどう違いますか?
決算前によく検討される対策を、決算書への表れ方で並べました。いずれも右の列の要件を満たすことが前提です。
| 対策 | 損益計算書の利益 | 貸借対照表・手元のお金 | 先に確かめる要件 |
|---|---|---|---|
| 従業員への決算賞与(期末までに通知し、翌月に支払う) | 賞与の分だけ減る | 期末にはお金はまだ出ていかず、未払いの賞与が負債に載る | 支給額を各人別に、同時期に支給する全員へ通知/期末の翌日から1か月以内に全員へ支払う/その期に損金経理する(支給日に在職する人だけに払う決まりの場合、その通知は要件の「通知」に当たらない) |
| 社長(役員)への決算賞与 | 賞与の分だけ減る | お金が出ていく | 事前確定届出給与として期の初めに届け出たものなどでなければ損金にならない(利益は減っても税金は減らない) |
| 家賃や保守料など、契約に基づいて続けて受けるサービスの1年分の前払い | 前払いした分だけ減る | お金が出ていき、資産には残らない | 支払った日から1年以内に受けるサービスであること/毎期続けて同じ処理をすること |
| 設備や備品の購入 | 少額のものを除き、その期の減価償却費の分だけ減る | 代金は買ったときに出ていき、設備が資産に載る | 期末までに事業に使い始めていること(買っただけでは経費にならない) |
| 経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)の掛金 | 経費として処理すれば、掛金の分だけ減る | お金は共済に積み立てられる。経費として処理した分は、決算書の資産には表れない | 解約手当金は益金になる/12か月未満の解約は掛け捨て/解約後に再加入すると、解約の日から2年を経過する日までの掛金は損金にならない(共済の記事) |
同じ「利益が減る」対策でも、期末にお金が残るもの、資産として残るもの、何も残らないものがあります。社長への決算賞与のように、利益は減るのに税金は減らない組み合わせもあります。社長の報酬は期の初めに組み立てるものなので、「役員報酬の決め方」もあわせてご覧ください。
共済には改正があり、令和6年(2024年)10月1日以後に解約して再び加入した場合、解約の日から2年を経過する日までに払う掛金は損金になりません(詳しくは「経営セーフティ共済は、入る前に出口を決める」)。
赤字になるまで節税すると、決算書に何が残りますか?
対策を重ねて赤字になると、その期の決算書は赤字の決算書として残り、純資産はその分だけ減ります。純資産がマイナスになった状態を債務超過といいます。
税の面では、青色申告の会社なら、その期の赤字(欠損金)を翌期以降10年間繰り越して、黒字になった期の所得から差し引けます。資本金1億円以下の会社などの中小法人等は、差し引く前の所得の金額まで控除できます。欠損金が生じた期に青色申告書で確定申告をし、その後も続けて確定申告書を出していること、欠損金が生じた期の帳簿書類を保存していることが条件です(青色申告の承認申請の期限は「池田市で会社を設立したら」に)。
赤字にした分はあとの期の税金を軽くする場合がありますが、決算書の赤字そのものは消えません。赤字の決算書で融資を相談するときの考え方は、銀行に決算書を出すときの記事のよくあるご質問で触れています。
来年借りる予定があるとき、決算前に何をどの順で確かめますか?
- 借入れの予定を書き出す:いつ、何のために、どのくらい借りたいか。申し込む時期によって、直近の決算書がどの期になるかも変わります。
- 期末までの着地を見込む:直近までの数字から、期末の利益と納税額の見込みを出します。
- 検討している対策を、上の表に当てはめる:利益・お金・資産と負債のそれぞれにどう表れるかを並べます。
- 事業に必要な支出かどうかで絞る:税金を減らすためだけの支出は、手元のお金を減らします。
- どこまで行うかを決める:節税をする・しないの二択ではなく、必要な支出は行い、それ以外は見送るという決め方もあります。最後に決めるのは社長ですが、判断の材料は税理士と一緒にそろえられます。
- 利益が動いた理由を書き残す:決算賞与を出した、設備を買ったなどの理由を残しておくと、決算書を渡すときに説明できます。
当事務所では、顧問契約で事業をされているお客様には、決算前に利益と納税額の見込みをお伝えしています。借入れのご予定があれば、その段階でお聞かせください。税額と決算書の表れ方を並べて、どこまで対策を行うかを一緒に考えます。BLOOMでは、この決算前の見通しづくりを、顧問として毎期お引き受けしています。顧問料は、トップページの料金プランをご覧ください。
※本記事は2026年10月時点の制度に基づく一般的な説明です。金融機関の審査の考え方は金融機関ごとに異なります。個別の状況により取り扱いが異なる場合がありますので、実行前にご確認ください。
よくあるご質問
Q.融資のために、経費を入れずに利益を大きく見せてもよいですか?
経費として計上すべきものを外したり、事実と違う数字にしたりすることはできません。法人税の申告は「確定した決算」に基づいて行うもので、銀行に出す決算書もその決算書です。一方、私的な支出が会社の経費に混ざっていたのであれば、それを外すのは本来の姿です。決算前であれば、どの対策を行うかを選ぶことはできます。
Q.決算書の利益と、法人税を計算するときの所得は同じですか?
同じとは限りません。法人税の所得は、決算書の利益をもとに、申告書(別表四)の上で足したり引いたりして計算します。たとえば、会社が費用として処理しても税務上は損金にならないもの(事前確定届出給与として届け出ていない社長への賞与など)は、利益に足し戻されます。そのため、決算書の利益は小さいのに税金はあまり減らない、ということが起こります。
Q.借入れの予定は、税理士にいつ伝えればよいですか?
決算の数か月前、期末の着地予想を出す前がおすすめです。借入れの時期や目的が分かれば、対策ごとの決算書の表れ方を並べて検討できます。期末を過ぎるとその期の取引は動かせないため、「来年借りるかもしれない」という段階でお伝えいただいて構いません。